「催眠」とは?
多分最初に出てくる疑問だと思うのですが、統一見解のようなものはありません。
学説も種々あります。
※「催眠自体存在しない」という説もあります。
ここでは 「
懐疑論者の事典〈上〉
」「
懐疑論者の辞典〈下〉
」の「催眠」の項の記述から少し紹介します。(意訳です)
- 催眠は、催眠をかける人と催眠をかけられることに同意する人とが関係するプロセスである。
- 催眠をかけられるということは、通常、 【非常に強い意識集中】、【極度のリラクゼーション】、【被暗示性の高さ】によって特徴づけられる。
- 催眠は、クライアントが恐怖症または悪習を克服するのを援助するために、行動修正療法において一般的に用いられる。
- その他にも用途があり、それらについては一層論争の的となっている。
これを紹介したのは、「だいたいこういうものだ」というイメージを提示したかったからです。
催眠をテーマとした多くの本では、著者の能力を誇示したいためなのか、あるいは自分の考え方を押し付けたいためなのか、ちょっと疑問の多い記述がされていると、私には感じられます。
その点、懐疑論者はちょっと突き放したものの見方や記述をする傾向があるので、ここに紹介しました。 こんなことをきっかけとして、いろいろ話をしてみるのも良いと思います。
初めての催眠本
これから読み始めるという方が最初に手に取る本として、以下のような本を紹介いたします。
書店で売られている、いわゆる「催眠本」の多くは、催眠誘導の技法にスペースを多く割いています。
そうした本を読んで「催眠が分かった」というのは、ちょっと危険であるように私は思います。 催眠誘導の技法は、たんに技法にすぎません。
過去を振り返ってみると、 そうした態度が日本における催眠の理解を結果的に阻害してきたとわかります。
催眠誘導の技法だけであればそれほど難しいものではありませんので、まずは全体像をつかんでみてはいかがでしょうか。
- 1、
図解雑学 催眠 (図解雑学シリーズ)
武藤安隆 (ナツメ社)
- 見開き2ページで1項目。 催眠について基礎知識を手っ取り早く得ることができます。
- 2、
催眠の科学―誤解と偏見を解く
成瀬悟策 (講談社ブルーバックス)
- 日本における催眠の第一人者の本。大学教授によるきちんとした本ですが、一般向け。
- 3、
クラズナー博士のあなたにもできるヒプノセラピー―催眠療法
A.M.クラズナー
- これも歴史から実際の催眠セッションまでを幅広く記述してあります。
「催眠」についての幻想と現実
多くの人にとっては、実際の催眠セッションなどを直接見聞きする機会は、ほとんどないのではないかと思います。
一方、「テレビや映画で見た」 「小説に書いてあった」 「漫画で読んだ」ということはあるかも知れませんね。
テレビ、映画、小説、漫画などでは、大多数のケースで、催眠のひとつの特性がデフォルメされて描かれるようです。
(日本催眠心理学会のホームページや私のブログなどではその一部を紹介していますので、 ご参考としてください。これからも少しずつ紹介していきます。)
たとえば、「のだめカンタービレ」でも、のだめが飛行機恐怖症を催眠を用いて克服させようとするシーンが描かれていますね。
人が催眠について過大な期待や幻想を持ちやすいのは、そうした<演出された催眠>によるイメージの影響が大きいのだろうと思います。実際、私もそうでしたから。
いろいろな本を読むなどして学んでいくと、現実の催眠の姿というのはそのような<演出された催眠>とは異なっていることに気づくことでしょう。
中にはあくまでも幻想を追い続けてお金や時間を使ってしまう人もいるようですが...
私たちが普段見聞きしている「催眠」というものは、相当デフォルメされていることが多いということを意識しておくと良いのではないかと思います。
催眠にかかると意識をなくす?
これはかなり多くの人が抱いている不安感ないしは誤解だろうと思われます。
「催眠」についての幻想と現実のところにも書きましたが、TVや映画・ドラマなどで普段見聞きすることができる<演出された催眠> はそのように使われることが大多数ですから、そう思うのも無理はないのです。
でも、現実の姿はそれとちょっと異なっています。
まず、「意識をなくす」ということなのですが、催眠セッションにおいて眠ってしまうということはあるかも知れません。 しかしながら、それは催眠ではなく睡眠ということになります。
通常、睡眠時には他者の言葉は耳に入りません。
催眠誘導する側の言葉も聞こえなくなりますので、それでは暗示の言葉を与えることもできず、催眠セッションとして成功とは言えません。
催眠セッションにおいては、暗示の言葉に反応することができるというのがポイントで、「催眠」とは?のところで記載した a) 非常に強い意識集中 というのがむしろ望ましい状態と言えるでしょう。
ここで、 a) 非常に強い意識集中 というのをもう少し具体的に書くと、催眠誘導する側の声は聞こえているけれども、他の光や音には感じていないというような状態が理想的な意識集中状態ということになります。
日常生活の中で、これに近いことを経験しているかも知れませんね。
例えば、うるさい居酒屋でみんなでワイワイ話をしているのだけれど、ちょっと気になる人の一言は聞き洩らさないことができるというようなことです。
まるで耳にフィルターがかかったように。
こうしたことを「カクテルパーティー効果」と呼んでいますが、「非常に強い意識集中」というのは、選択的な意識集中であるとも考えられます。
一見「意識をなくす」という俗説とは逆にも見える、「非常に強い意識集中」という説明は、そういうことを意味しています。
催眠にかかると操られる?
ドラマや小説の中での<演出された催眠>では定番ですが、これも催眠についての幻想のひとつですね。
催眠セッション中は意識がなくなるわけではありませんから、暗示の言葉を聞くことができます。 その暗示に反応するのは催眠をかけれらる側です。
暗示を受け入れるのであればそのとおりに反応しますし、拒否したければ拒否することもできます。
一方、私たちが見聞きするものの中では、ショー催眠(見世物としての催眠)のデモンストレーションで、「あなたは鳥になる」だとか「あなたは犬になる」といったような見せ方をすることはあるかも知れませんね。
(明治時代からの古臭い演目なのでヘキエキですが...)
これは、催眠をかける側にその力があるわけではなく、催眠をかけられる側が結局はその暗示に従うことで成立するものです。
(催眠をかける側も、相手の反応を見ながら、たくみに誘導しているように見えるように言葉や動作を行っているのはたしかですが。)
これを外から他人が見ると、いかにも操られているように見えるのです。
そうしたイメージをデフォルメし、あたかも催眠をかける側が人を操る力を持っているように思いこませることは、催眠をかける側、それを売り物にする側にとっては都合の良いことですから、見た目には奇妙に見える現象と催眠術師のイメージを結びつけて表現しようとしているのです。
催眠セッションの本当の主役は、催眠をかけられる側です。
こうしたことを知らずに「あなたも思うように人を操れる」 といった催眠術関係の広告を見ると、思わずそうした教材などを購入してしまうかも知れません。
そうしたキャッチフレーズはあくまでも広告文であると思った方が賢明でしょう。
催眠を扱った本の中には、「倫理的・道徳的でない暗示をかけられたら覚醒するから、そういった暗示には絶対反応しない」というようなことを書いてあるものもありますが、その言説の根拠もまたよく調べてみる必要があると思います。
催眠をかける側が巧みに暗示をつくり、催眠をかけられる側が暗示にとてもよく反応するようですと、結果として倫理的・道徳的でない行為をしてしまうという例が複数例報告されています。
WEBサイトなどで派手に宣伝をしているような催眠講座を避けて、何冊かの良書を読むだけでもこの程度の知識を得ることはできます。
思い込みや誤解を自ら解いていく過程は、なかなか面白いと感じることでしょう。
催眠関係のWEBサイトについて
今回はちょっと視点を変えて、催眠について情報を得る際のWEBサイトの利用について書きます。
検索サイトで「催眠」と入力して検索すると、それこそ玉石混交のサイトが出てきます。
その多くは、 お金儲けのためか、 催眠を歪曲して伝えるものか、倫理性を無視したサイトであることに注意が必要だと思います。
WEBサイトに書かれている情報の正誤を見抜くためには、相当量の勉強が必要です。
うっかりうのみにしようものなら、間違ったままの情報を信じてしまうことになりかねません。
また、ひとりで考えるよりも複数の意見を聞いた方が良いことも多いので、例としてmixi内の以下のトピックなどを利用して、自ら情報発信することで学ぶスタイルをとるのも効果的です。 私もできるかぎり回答しようと思います。
▼『初心者』の為の質問部屋↓
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=36979660&comm_id=3825141
さて、ここでは日本催眠心理学会以外のサイトで参考になるであろうと思われるものを紹介します。 (あくまで私の主観です)
- REAL HYPNOSIS : 情報量も多く、充実したサイトです。
- 催眠の表と裏 : ニセモノを見抜くために知っておくと良いと思います。
- 催眠勉強帳 : 書いてある内容は高度ですが、ご参考までに。
- (関連ページ、催眠エビデンス) こちらも参考になります。
何かの情報を得る → 自分の頭でよく考える → 人と話し合う → またまた考えるのようなサイクルで学んでいくと、理解も進み、また、元の情報が検証されることで正しい理解を得ることになるのではないかと思います。
関連項目
関連書籍
渋谷研究所X「愛のテーマ」(Love theme for Shibuya Institute)