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前世療法は本当に効果があるのか?

一般的に前世療法とは、催眠によって出生以前まで記憶を退行させ、前世だとされるイメージを見る事によって、ストレスの緩和、心的外傷、その他多くの症状に効果があると説明される。

この分野ではアメリカ合衆国の精神科医であるブライアン・L・ワイス博士が有名である。
こと日本において前世療法とは、スピリチュアル・ブームに乗って流行したオカルト療法の一種と言って過言ではないでしょう。

前世は実在するか

前世というのは実際のところ、その存在が確認されたわけではない。
しかしこれには反論する人もいるだろう。

1950年前半、アマチュア催眠術師であったモーリー・バーンスタインという実業家が、29歳の主婦、ヴァージニア・タイに催眠セッションを行った。
セッションは6回にわたって行われ、ヴァージニア・タイの夫も立ち会い、その模様は録音された。
間もなくヴァージニアは1798年にアイルランドで、プロテスタントの法廷弁護士、ダンカン・マーフィとその妻キャサリーンの娘として生まれた、ブライディ・マーフィだと語りだした。
ヴァージニアは静かなアイルランド訛りで、1864年に亡くなるまでのブライディだった(とされる)頃の人生を、事細かに描写して見せたのだ。

ある時ヴァージニアは、「モーニング・ジグ」というアイルランドの踊りについて話し、バーンスタインは後催眠によってトランスから覚めた後にそれを踊るよう誘導した。
ヴァージニアは踊りが下手なことで知られていたが、ひどく元気良く、素敵な踊りを踊ったという事実は周囲の人間を驚かせた。
ヴァージニアはアイルランドの情報を得るような本を所有しておらず、図書館に通う習慣もなかった。

全く知りえないはずの知識を、ヴァージニアは見事に引き出して見せたのだ。

これには圧倒的な説得力があり、アイルランド訛りも紛れもない本物と思われた。
この事は「The Search for Bridey Murphy」というタイトルで1956年に刊行され、世界的な大ベストセラーとなっている。

ところがこれはあっけなく崩されてしまった。
ブライディの記憶とアイルランドに残っている記録と照らし合わせてみると、重要な点において殆ど一致しなかったのだ。
ブライディはおろか、その家族に至るまで、出生と死亡の記録はどこにも記載されていなかった。
似たような名前の人物はいたが全く違う地域であったし、ブライディが語ったドゥーリー通りは存在せず、学校も、教会も、用品店も、友人の名前すら見当たらなかった。

実際のところ、一般的な知識があり人並の演技力を持ち合わせていれば、現象を合理的に説明できてしまう事例はいくらでもある、と指摘されている。


日本でも数年前に、渋川村で生贄になり死亡したとされる女性、タエの記憶を催眠状態で想起したとする事例が報告され、ついに前世の証拠を発見したかと話題になった。
しかし、タエの実在を裏付ける証拠は発見することが出来なかった。

またこの時催眠を行った施術者は現在、チャクラヒーリング、霊障、霊信、魂、守護霊などを研究しており、仮説に仮説を重ねると言う意味ではおよそ科学的とは程遠いと言わざるを得ない。

前世の実在をを実証するとは、その証拠を見つけることであり、曖昧で抽象的な意味づけをしていくことではないからである。
第二の事例とされるネパール語を話したとする事例も、残念ながら空耳を羅列しただけとしか思えないバイアスのかかったものであった。

無意識とは?

一般的に無意識とは大きく二つある。
フロイトの提唱した「意識でない」領域と、通常の心理学で言う「意識が無い状態」である。
ジークムント・フロイトは、無意識にはトラウマや欲求などが抑圧されており、これが神経症を引き起こすという仮説を立てた。
それには前提としてプラトンの提唱した、人間は過去の体験したあらゆることを事実のとおりに全て記憶しているという仮説がある。
これは後にフロイトの弟子であるユングによって、無意識という概念を継承しつつも、フロイトの概念では説明しきれない部分を集合無意識として提唱された。

しかし、無意識とはあくまで主観的なものであり、客観的に観測することは困難で、その存在は未だに実証されていない。
例えば「無意識は8割、顕在意識は2割」などといった定義付けもほぼ不可能なのである。

また、催眠で言うところの無意識というのは、通常の心理学的な無意識とも、フロイトやユングのいう無意識とも異なり、新興宗教やオカルト療法家によって極端に歪曲・拡大解釈された定義のあいまいなものである。
いわば「私はこう思う」という程度の言ったもん勝ち理論であり、根拠は乏しい。
したがって「無意識に働きかけることによって◯◯を可能にする」といったことは検証できないのである。

人間はまるでビデオカメラのように体験したすべてのことを記憶しているという仮説も、現在では既にそうでないことがわかっている。

無意識のパワーは無限か?

自己啓発セミナーや、催眠療法などにおいてよく言われるのがこれである。
彼らは、無意識に直接語りかける事によって、恐怖症も、アルコール依存症も、トラウマも改善することが出来、さらには禁煙やダイエット、大したトレーニングもなくコミュニケーションスキルを向上させたり、年収を倍にすることや、あらゆる願望を実現させる事が出来ると説いている。

果たしてこんなことが本当に出来るのだろうか?

第一の疑問は、無意識というそれ自体実証困難なものに対して、「直接働きかける」なんてことがどうやって実証できたのであろうか。
何か働きかけを行ったらそれなりの結果が出たとしても、それが「無意識の力によるものだ」という確証をどうやって得たのであろうか。
現時点では、「無意識」なるものが本当に存在しているかどうかすらわからないのに、である。

第二の疑問は、それがきちんとしたデータなのか?という事である。
自己啓発セミナーやオカルト療法家は往々にして、データを取る事をしない。
既に統計データが存在して、そのデータの信憑性云々という話ならわかる。
しかし実際には統計データすら存在しなく、多くは個人の主観に基づいた体験談の集積、あるいはそれをさらに拡大解釈させたいわば捏造データである。

考えてみよう。
仮に無意識に秘められたパワーが無限だとするなら、残った2割の部分も同様に無限ということになってしまうのではないだろうか?

個人の主観に基づいた体験談というのは、確証バイアスや後付けバイアスによって都合の悪い部分は取り除かれ、成功談のみが誇張して語られる。
本人にデータを歪曲させる意図が無くとも、結果的に歪曲させてしまうのがバイアスなのである。
したがって通常、実証的な研究方法においてはバイアスを取り除く努力がなされる。
二重盲検などがそれである。

たくさんの人に暗示をすれば、そのうち何人かは偶然にも実現してしまう人がいる。
例えば「ホゲホゲパワー」というのを提唱したとして、ホゲホゲ・エンジェリック・ヒーリングによって癌が治ってしまう可能性もゼロではない。
しかし重要なのは、それが本当にホゲホゲパワーによるものなのか、自然治癒なのか、平均への回帰なのか、気のせいなのか、きちんと検証されていないという部分である。
また、可能性はゼロではないのだから、やってみても良いだろう、という人がいる。
詳細は後述するがこれは間違いである。

前世療法では催眠中に何を想起しているのか?

1970~1980年代にかけてのアメリカでは、幼いころ父親にレイプされたり、虐待された記憶をもつ子供がたくさん現れました。
そして実際に裁判になり、非常に多くのえん罪を生みだしました。
虚偽記憶(False Memory Syndrome)です。

退行催眠によって【過去の記憶を正確に思い出す事が出来る】【忘れていたトラウマを思い出す】などと言った、催眠に対する過度の期待や、「論文を書きたい、脚光を浴びたい」といった欲求が催眠療法家にこのような行動をさせてしまったのだろうと言われています。

認知心理学者のエリザベス・ロフタスはこういった状況を目の当たりにし、虚偽記憶について研究しました。
有名なものですと【ショッピングモールの迷子】実験というのがあります。

この実験でロフタスは24人の被験者を集め、それぞれの被験者の家族から当人の子供時代の出来事を聞き取り、本当のエピソード3つに、『ショッピングモールで迷子になった』という嘘の話を付け加えて小冊子を作りました。
被験者にはこの小冊子を読み、もし記憶にない場合は「これは覚えていない」と書きこむよう指示しました。
ロフタスの結果では25%が(実際には迷子になっていないのに)迷子になった記憶を“思い出し”、ロフタスはそのリアリティに驚いた、とあります。
4人に一人は空白の記憶を埋めるために自ら偽の記憶を、それもロフタスが驚くほどのリアリティをもって作り上げてしまったのです。
(ただしロフタスの実験には批判も存在する)

その後、ブリティッシュ・コロンビア大学のスティーブ・ポーターは約50%の被験者に『子供のころ猛獣に襲われた』と思い込ませることに成功しています。
催眠中に見るイメージは過去のイメージの合成、つまり【作話】なのです。
前世療法および退行催眠は、クライアントに【偽物の記憶】を植え付けてしまう危険性があります。

しかもそれは施術者が意図的に誘導する事も可能であり、仮に意図しなかったとしても施術者側の実験者効果などにより虚偽記憶を植え付けてしまう事を否定できない、という事です。※

そして人間の五感と言うのは非常に騙されやすくバイアスがかかりやすいため、(特に民間催眠療法家の)施術者自身が望んでいる結果へクライアントを誘導している事に気づかない場合が多いという事も考慮すべきでしょう。

※実は筆者自身も以前そのような催眠誘導を受けたことがある。
催眠中に、事あるごとに「それはどこですか?アトランティスですか?ムーですか?レムリアですか?」などと聞かれるのである。
そこで「えー、ムーですかね・・・」などと言おうものなら、「ムーの何とか王がどうたらこうたらだから・・・」と自分なりの解釈を始め、「その時の神官の名前はなんですか?」などと質問されるのである。
残念ながら私はムー大陸にはそれほど興味がないのでどうということはなかったのですが、ふとその人の交友関係を見ると、私は生前アトランティスで何々していました、等といった自己紹介をする人が多かった。

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